第1章|空気は“入れればいい”では整わない|換気設計のリアルと盲点
「24時間換気」があるから安心?——それ、本当に機能してる?
建築基準法で24時間換気が義務化されてから、多くの住宅が「換気してます」と表示されるようになりました。
でも僕からすると、換気扇が回っていても、それは“換気している”とは限らないんです。
現場でよくあるのがこのパターン:
- 給気口が閉じられたまま(冷気や騒音が気になるから)
- フィルターが詰まっていて給気量が半減
- 排気だけが強すぎて家全体が負圧状態
- 換気ルート上に障害物があり、空気がショートサーキットしている
つまり、「設備があること」と「機能していること」は別の話なんです。
換気とは、ただ空気を入れることではなく、
**「計画された空気の流れが、継続的に成立していること」**が前提。
そしてそれは、設計と施工の精度・暮らし方の理解がセットになっていなければ機能しません。
換気が整っていない家に起きる3つの現象
僕が設計診断でよく遭遇する“換気不良の家”には、以下のような現象があります:
- 結露やカビが繰り返される壁・天井
→ 湿気が滞留して排出されず、素材が腐朽 - 部屋ごとの気圧差によって扉がバタンと閉まる
→ 排気過多の負圧状態。給気が追いついていない証拠 - 室内のにおい(生活臭)が取れにくい
→ 空気が入れ替わる構造になっていない。フィルター劣化の放置も原因
これらは「人の健康」にも「素材の劣化」にも直結する空気のトラブル。
そしてその多くは、換気設計を“図面通り”で終わらせた結果として起きています。
僕が重視する換気設計の出発点
換気を設計するうえで、僕がまず確認するのは吸排気の「意図」と「実現性」があるかどうかです。
- 家のどこから空気を取り入れ、どこへ抜くか
- その経路が障害物なくつながっているか
- 冷気や騒音で閉じられてしまう場所になっていないか
- キッチン・浴室など、強制排気と他空間との圧力バランスはどうか
これらを“人が暮らしながら調整できるかどうか”も含めて設計して初めて、
「換気が効いている家」になると考えています。
第2章|換気方式の選び方|第1種・第3種、それぞれの使いどころ
「第1種 vs 第3種」…単なる設備選びではない
設計相談で「うちは第1種換気にする予定です」と言われることがあります。
でもそのとき僕が考えるのは、
**「それは本当に暮らしに合ってる?」**ということです。
確かに第1種換気(給排気ともに機械)は、熱交換が可能で高性能。
でも、その分コストも施工精度も求められる。
一方、第3種換気(給気は自然、排気のみ機械)は構造がシンプルで、コストパフォーマンスが高い。
でも、気密が甘ければ給気が不安定になり、負圧のリスクもある。
つまり、選ぶべきは「スペック」ではなく、空間のつくりと暮らし方に合う方式なんです。
第1種換気|快適性と計画性に優れるが、施工精度と管理が命
メリット
- 室温に近い空気を取り込める(熱交換)
- 室内の温度・湿度の変動が小さい
- 給排気ルートが制御できるので設計自由度が高い
注意点
- 給気・排気の配管設計が複雑で施工難易度が高い
- ダクト内の清掃やフィルター交換の管理が必要
- 小さなミス(ダクトの断熱不足など)が結露やカビの原因に直結する
おすすめする家
- 高断熱・高気密の新築住宅
- 冬の乾燥が気になる家庭
- 花粉やPM2.5への配慮が必要な人
第3種換気|シンプルで現実的、でも気密とバランスが鍵
メリット
- 換気扇(排気)と自然給気口だけで構成できる
- 施工が簡単で、メンテナンス負担も少ない
- 設備コストが抑えられる
注意点
- 給気が外気そのままなので、冬は冷気が直接入る
- 給気口の配置や開閉状況によって効果にムラが出る
- 気密性が低い家では、給気ルートが乱れて“逆流”することも
おすすめする家
- 中古住宅のリノベーション
- 通風を重視し、四季に合わせて窓を開け閉めする暮らし
- 熱交換まで求めず、空気の入れ替えに重点を置く家庭
僕が選定時に確認するポイント
どちらの方式でも、僕は次のような条件を確認しています:
- 給気口の位置は、風の流れと生活動線を妨げていないか
- 排気が“滞留しがちな場所”にちゃんと設置されているか(例:洗面・トイレ・北側収納)
- フィルターのメンテナンスが住まい手の手に届く位置か
- キッチンの換気と連動しているか(レンジフード連動型 or 同時給排)
結局、どの方式を選ぶにせよ、設計と施工の精度+住まい手の理解がなければ換気は機能しません。
システム任せにしない。そういう意識が、空気の質を守る第一歩だと思っています。
第3章|気密がなければ換気は成り立たない|空気を動かす“前提条件”
換気システムは“閉じた空間”があって初めて機能する
「換気はしているのに、においがこもる」「冬になると冷気が入り込む」
それ、気密が取れていないことが原因かもしれません。
気密が甘いと、空気は設計されたルートではなく、“楽な抜け道”に逃げていく。
つまり、排気はされても給気がうまくいかない、あるいは逆流する。
その結果、空気が巡らず、**“換気してるのに空気が悪い家”**が生まれる。
換気と気密は、セットで成立するシステム。
どちらか一方が欠けると、もう一方は機能しないんです。
気密が取れていない家で起きること
- 計画通りの給気ルートが成立しない
→ 吸気口からではなく、隙間から外気が流入。冷気や湿気を伴うため快適性を損なう。 - 室内が常に負圧になり、外気を引き込む
→ 冬場はとくに“すきま風”が強まり、暖房効率が下がる。 - 局所的な結露やカビの原因になる
→ 空気の流れが安定しないため、換気が届かない場所に湿気が溜まる。
これらは「気密なんて完璧にできないから」と済ませるには、あまりにも影響が大きい。
だから僕はリノベでも、“後施工気密”の精度を徹底的に上げることを基本にしています。
リノベでも“気密は上げられる”
新築なら気密設計は初期から計画に組み込めるけれど、リノベでは難しい——
そう思われがちです。でも、工夫次第でリノベでも十分に気密性能を上げることは可能です。
僕がよくやるのは:
- 壁体内へのあと施工の気密シート挿入+テープ処理
- 開口部周辺の発泡ウレタンと気密テープの併用
- 天井・床の取り合い部を一体で塞ぐ連続気密ラインの確保
これらを設計図ではなく現場で“空気の道”を読む感覚で処理していきます。
数値だけでなく、感覚として「空気が逃げない構造」になっているかどうかが、体感の差に直結します。
換気と気密は“空気をデザインする”ための基本レイヤー
どんなにいい素材を使っても、
空気の設計ができていなければ、その素材は「ただ貼られた板」に過ぎない。
でも、空気が巡っていれば、
その素材は呼吸し、湿気を調整し、においを和らげてくれる。
換気と気密は、そうした**“素材の力を引き出すための土台”**です。
だから僕は、自然素材のリノベほど、空気の器としての気密精度を大切にしています。
第4章|呼吸する家を暮らしで支える|住まい手ができる空気の整え方
空気は設計だけでは完成しない
設計や施工で“空気の道”を整えても、それだけで終わりではありません。
家の空気は、暮らしの習慣によって育てられるものだと僕は考えています。
完成直後が最も性能が高くて、年々落ちていく——
そんな家にしないために、住まい手にも「空気のメンテナンス」という意識が必要です。
空気を整えるために“できること”
1. 朝、5分だけ対角線で窓を開ける
気温差のある朝に窓を開けて空気を抜くことで、夜間にこもった湿気やにおいがリセットされます。
特に風がない日でも、開口の“高さ差”を意識すると自然に空気が抜けやすくなります。
2. 換気扇の“回しっぱなし”は場所を選ぶ
トイレや脱衣室などの局所排気は「24時間運転」でOK。
でも、LDKの換気は生活リズムに合わせてON/OFFした方が熱損失が少なく、室温を安定させやすい。
3. フィルターの清掃を月1回のルーティンに
どんなに高性能なフィルターでも、詰まれば性能はゼロ。
とくに給気口フィルターには、花粉・虫・PM2.5が蓄積しやすい。
掃除のしやすい設置場所と、管理しやすい習慣がセットで必要です。
4. 加湿器・除湿器は“素材”と相談して使う
漆喰・和紙・無垢材などの自然素材は湿度を調整しますが、機械で過剰に加湿・除湿すると調和が崩れる。
湿度計を見ながら、50〜60%を目安に、素材に無理をさせないコントロールを心がけたい。
空気は“素材が働く土壌”になる
空気が巡る家は、素材の力を最大限に引き出してくれます。
においがこもらない、湿気が溜まらない、音が響かない——
それはすべて、空気の“質”と“動き”がつくるもの。
でもその空気は、住まい手が整えていく部分も大きい。
設計で整える「器」と、暮らしで保つ「習慣」——
この2つが揃って、はじめて空気が生きはじめる。
次章では、この記事全体のまとめとして、
**「空気から考える家づくりとは何か」**を振り返ります。
まとめ|空気をデザインする家づくりの本質
空気は「設備」ではなく「環境」
僕が伝えたいのは、
換気=設備の話ではないということ。
- 機械換気の方式(第1種・第3種)
- 気密の精度とその施工
- 給気と排気のルート設計
- 素材の力が活きる空気環境
- そして、住まい手による日常的な維持と習慣
これらすべてが組み合わさって初めて、空気は“整う”。
つまり、空気を整えるとは「設計と暮らしの共同作業」なんです。
なぜ、空気の話がこんなに重要なのか
空気は見えない。
でも、身体には確実に届いている。
- 呼吸が浅くなる
- 頭が重くなる
- 眠りが浅い
- 朝からだるい
- 家にいると疲れる気がする
こうした違和感の正体の多くは、空気の質。
そしてそれは、設計・素材・気密・換気という積み重ねから生まれている。
素材を選ぶなら、空気から整える
自然素材のリノベーションが注目されています。
でも僕からすると、素材を貼る前にまず考えてほしい。
- 空気は巡っているか
- 湿気は滞留していないか
- 給気と排気のバランスは取れているか
- 冷気は入り込んでいないか
- メンテナンスしやすい構造になっているか
その土台が整っていてこそ、漆喰は呼吸し、無垢材は湿度を調整し、においを吸着してくれる。
素材が働くには、空気が整っていることが前提なんです。
最後に
僕がつくりたいのは、
“空気がいいから、深呼吸したくなる家”。
その感覚の正体は、設計で整えられた空気の流れと、
住まい手のリズムに合った暮らし方から生まれます。
設備だけでも、素材だけでもなく。
空気という目に見えない「環境そのもの」まで設計すること。
それが、僕の考える自然素材リノベの本質です。
▶ 「空気から家を整える」リノベ、始めませんか?
家の空気って、においだけじゃなく、健康や素材の持ちまで左右するもの。
僕たちは、気密・換気・素材をセットで設計する“空気から始まるリノベ”を大切にしています。