1. 新築の「ピカピカ」がずっと続かなくてもいい理由
「せっかく家を建てるなら、きれいな状態をずっと保ちたい」
そう思うのは、当然のことだと思います。僕も最初はそうでした。
でも、どんな家でも“経年変化”は避けられないんです。
壁も床も、住んでいれば少しずつ変わっていく。色が変わり、傷が増え、風合いが出てくる。
そのときに大事なのは、
それを「劣化」と捉えるか、「味わい」として受け取れるか。
僕は、この感覚こそが、自然素材の家で暮らす意味だと思っています。
2. 僕が惹かれた「経年変化」という考え方
自然素材を扱うようになってから、「経年美化」という言葉をよく使うようになりました。
たとえば杉の床。
施工直後は赤みが強かった部分が、数年経つと深い茶色に落ち着いてきて、光の角度によって艶が出てくる。
漆喰の壁も、最初は真っ白だったのに、
子どもの手が届くところにうっすら跡がついて、それが少しずつ“家族の形”になっていく。
正直、それを「汚れ」として気にする人もいます。
でも、僕にとってはそれこそが、暮らしの積み重ねが刻まれた“年輪”みたいなものなんです。
3. 無垢材・漆喰・金物…素材別の経年変化のリアル
杉・桧の床|赤身が深みを増し、白太はグラデーションに
杉や桧の床材は、使い始めは明るい印象があります。
でも年数が経つと、赤身部分はより濃く、白太はほんのり飴色に変わっていく。
この変化が、家全体に“重ねた時間”の雰囲気を与えてくれます。
僕の中では、“整いすぎていない美しさ”って、こういう感じだと思ってます。
漆喰の壁|少しずつ呼吸して、表情を変える
漆喰は生きてる素材です。
湿気を吸って吐き、光を受けてほんのり表情が変わる。
手跡やスリキズもつきますが、それを重ねていくことで家に深さが生まれる。
「完璧に真っ白な壁」はすぐ飽きるけど、「ちょっと味が出てきた壁」は、愛せます。
真鍮やアイアンの金物|くすみや変色が“存在感”になる
金属部分も同じです。
特に真鍮は、使うほどにくすんでいって、それが味になっていく。
ピカピカの金属も美しいけど、手垢や空気と反応して変わる金属は、「暮らしと一緒にいる感じ」がして、僕は好きです。
4. 傷が増えること=“壊れていく”ではない
あるご家族から、こんなことを言われました。
「最初は床に傷がつくたびに落ち込んでたけど、いまは“うちの子がここで遊んだ証”って思えるようになったんです」
これ、本当にうれしかった。
素材が傷つくこと=住まいが壊れていくことじゃない。
むしろ、素材が「使われている」ってことこそ、家が生きている証拠だと思います。
5. 暮らしとともに育つ家の風景
毎年、同じお宅に点検や取材で訪れると、
「この家、最初より今の方がいいな」って感じることがよくあります。
壁にアートが増えてたり、床に味が出てたり、キッチンの真鍮がちょっと黒ずんでたり。
でも、それが全部、家族が“暮らしてきた証”として、美しく感じられるんです。
新築のピカピカさは一瞬で、
経年変化の味わいは一生残る——
僕はそんな家の方が好きです。
6. 僕が伝えたいこと|素材は時間を味方にする
自然素材の家って、建てたときが完成じゃない。
むしろそこが“スタート地点”です。
素材は時間と一緒に生きていく。
それを受け入れることができる人にとって、**経年変化は「劣化」ではなく「深化」**になります。
ピカピカを保つよりも、味わいが増していく方が好き。
そう思える人に、僕は自然素材の家を全力でおすすめしたいです。
▶ 経年変化のある家、見てみませんか?
経年変化の美しさって、写真じゃ伝わらないんですよね。
僕たちが建てた家の中には、「完成したときより、5年後のほうが好き」って言ってもらえる家がたくさんあります。
素材が育ったあと、家がどんなふうに味わい深くなるのか。
まずは実際の事例を、見て感じてみてください。
「自然素材に惹かれるけど、うちの暮らしに合うのかな?」
「汚れや傷が気になる性格なんだけど、大丈夫かな?」
僕は、そんな“まだ決めきれない段階の不安”こそ聞いてほしいと思っています。
正直なところ、向き不向きはあります。でも、それを一緒に考えるところから、家づくりって始まるんです。