第1章|自然素材の壁に惹かれるけれど、不安もある
「自然素材の壁って、なんか素敵ですよね」
リノベーションや家づくりの相談を受けていると、こんな声をよく耳にします。
漆喰の白い壁。
珪藻土のマットな風合い。
どちらも呼吸するように空気を整え、視覚的にも空間に“余白”を与えてくれる存在です。
でも同時に、こんな不安の声もよく聞きます。
「傷つきやすいって聞いたけど、本当?」
「手入れが大変そうで…」
「そもそも、どっちがいいのか分からない」
——その気持ち、とてもよく分かります。
僕自身も、はじめて自然素材の壁を扱ったときは、わからないことばかりでした。
見た目はいいけど、実際どうなの? メンテナンスは? コストは?
あらゆる情報が飛び交う中で、どこを信じればいいのか——戸惑ってしまいますよね。
でも、それってあなただけじゃありません。
実際に住んでいる人たちも、最初はみんな同じように迷っていました。
だからこそ、この記事では
「漆喰」「珪藻土」それぞれを選んだ人たちのリアルな声をもとに、
後悔しない素材選びのヒントを一緒に探していけたらと思っています。
第2章|珪藻土って実際どう?
── 調湿・脱臭に優れているけど、万能じゃない
珪藻土は、植物プランクトンの化石からできた天然素材。多孔質な構造が特徴で、調湿性や脱臭性に優れているため、「空気がキレイになる壁材」として人気があります。
表面はマットでやわらかく、光をやさしく反射するため、空間が落ち着いた印象になるのも魅力です。
DIYしやすく、比較的コストも抑えられるため、「気軽に自然素材を取り入れたい」という人に選ばれることも多いですね。
ただし、珪藻土には気をつけたいポイントもあります。
● 傷がつきやすく、水分には弱い
珪藻土は柔らかくてデリケートな素材。ちょっとした衝撃で欠けたり、擦れたりすることもあります。さらに、水分を吸い込みすぎるとポロポロ崩れることがあるため、施工場所の選定には注意が必要です。
実際に、珪藻土を選んだ施主さんの中には「子どもが触ったあとが気になるけど、それも“暮らしの跡”かなと思えるようになった」と話す方もいました。
この“寛容さ”があると、珪藻土のある暮らしはとても心地よいものになります。
● 本来の性能を引き出すには「厚み」と「下地」がカギ
珪藻土の性能を発揮するには、施工の方法も重要です。よくあるのが、石膏ボードの上に1mm程度で薄塗りされるパターンですが、このやり方では調湿効果はほとんど得られません。
石膏ボードの上に塗るなら厚みは5mm以上つけるようなイメージが必要です。
本来は、土壁や調湿性のある下地の上に、3〜5mmの厚みで塗るのが理想。そして一度で仕上げるのではなく、最低でも3回塗り(下塗り→中塗り→仕上げ)を行うのが、本来の使い方です。
とはいえ、「そこまで本格的には…」という人もいるでしょう。
そういうときは、部分的に使ったり、DIYキットで小さく試してみたり。自分の暮らしにあった“ほどよい取り入れ方”を探してみるのも、自然素材との向き合い方としてとても大切だと僕は思います。
第3章|漆喰って実際どう?
── 美しさと清浄性のある素材。でも“扱いやすさ”とは別物
漆喰は、消石灰を主成分とした強アルカリ性の自然素材。古くはお城や蔵、町家など日本の伝統建築で用いられてきました。その理由の一つが、カビや菌の繁殖を抑える強い抗菌性と、防火性。
さらに、空間をパッと明るくする“凛とした白さ”も、多くの人を惹きつけます。京都の町家でも、漆喰壁の白さが障子や木部と調和し、凛とした美しさを醸し出しています。
ただし、漆喰にも慎重に扱うべき点があります。
● 強アルカリ性ゆえの注意点
漆喰の主成分である消石灰は、強アルカリ性のため、素手で触れると肌荒れを起こす可能性があります。特にお子さまや敏感肌の方がいるご家庭では、施工前にしっかりとリスクを把握しておくことが大切です。
これはアレルギーとは少し違って、「強い成分による刺激」の問題。実際、手荒れを感じた方もいますが、そうした場合は自然由来の中性素材に切り替えることも可能です。
● 補修は「チョーク」で?──実は、意外と簡単
「漆喰って割れたりしたらどうするの?」という声をよく聞きます。
実は、表面の細かい傷や薄いひび割れであれば、白いチョークを軽く擦ってなじませるだけで、ある程度は補修できます。完全な修復ではなく“目立たなくする”ための手法ですが、それでも十分という方も多いです。
もちろん、大きなクラックや施工ムラが出た場合は専門の左官職人に依頼した方が安心ですが、「日常のちょっとした補修なら自分でもできる」という点は意外と知られていません。
● 仕上がりの美しさは「職人の腕」に左右される
漆喰は、技術の差が出やすい素材です。均一に美しく塗るには熟練の技が求められ、DIYにはやや不向き。下地処理の丁寧さや、乾燥時間の見極めなど、一つひとつの積み重ねが“仕上がり”を大きく左右します。
実際、信頼できる職人に施工を依頼したお宅では、10年以上経っても美しい白さを保っているケースもあります。そうした住まいでは「手をかけた分、空間に誇りが持てる」と話すご家族も多いんです。
第4章|“後悔する家”と“納得する家”の違い
── 素材を選ぶ前に、「暮らしの価値観」を整えること
「自然素材はいいらしい」と思って選んだのに、実際に住んでみると、
「汚れが気になる」「手入れが面倒」「思っていたのと違った」と、
後悔を口にする人がいます。
でも、反対に「多少手がかかるけど、すごく気に入っている」と語る人もいます。
この違いは、素材そのものではなく、“選び方の姿勢”にあります。
● 「暮らし方」を起点に選んだかどうか
たとえば、小さなお子さんがいる家庭なら、壁に手形がつくのは当たり前。
それを「汚れ」と感じるか、「思い出」と感じるかで、同じ漆喰の壁でも印象はまったく変わります。
「掃除が苦手」「ワックスがけなんて無理」という方に、無垢の床は向いていないかもしれません。
でも、「多少の手間も楽しめる」「経年変化を味として受け入れられる」人なら、無垢材は最高の選択になります。
● “理想の暮らし”を描けているかどうか
素材は、暮らしを引き立てるための“道具”です。
だから、「どんな家にしたいか」より先に、「どんな暮らしがしたいか」を描けているかが大事です。
・裸足で歩くことが多い → 足触りの良い素材を
・ペットと暮らしている → 傷やニオイに強い素材を
・空気の質に敏感 → 調湿・抗菌性のある素材を
素材選びに迷ったときは、「その素材でどんな日常が送れそうか」を具体的に想像してみてください。
● 後悔の背景には「情報の偏り」もある
インターネットには、素材の“良い面”ばかりが目立ちます。
けれど、どんな素材にも短所があります。
後悔する人の多くは、実際に暮らし始めてからその短所を知ります。
「聞いてなかった」「知らなかった」という声は、決して珍しくありません。
だからこそ、素材の美点だけでなく、
「汚れる」「割れる」「メンテが要る」などの“クセ”まで知っておくことが、後悔を防ぐ鍵になります。
● 「素材を育てる」という発想を持てるかどうか
最後に、これは僕の持論ですが、自然素材の家に向いている人って、
「完成されたもの」より「育てていくもの」に魅力を感じる人だと思うんです。
・少しずつ風合いが出てくる床
・手垢がついた壁に思い出を感じる暮らし
・手をかけるほどに馴染んでくる空間
こういう価値観を持てる方にとっては、自然素材の家は唯一無二のパートナーになります。
第5章|“正解”より、“納得できる選択”を
自然素材の家には、絶対的な「正解」はありません。
珪藻土がいい、漆喰がいい——そんな議論よりも、
「自分に合うかどうか」「自分が納得できるかどうか」が、
本当に大切なポイントです。
暮らし方や価値観、家族構成や好み、手間を楽しめるかどうか。
それらが素材選びの“軸”になります。
● 理解して、受け入れて、共に暮らす
「少し手がかかるけど、それでもいいと思えるか」
「素材の癖を、自分の暮らしの一部として受け入れられるか」
そんな視点で選べば、自然素材の家はきっと、あなたの暮らしに深くなじんでいきます。
● 最後に、あなたへ
僕は、素材の“美しさ”だけで家を語るのは、ちょっと違うと思っています。
大事なのは、その素材と“どんな時間を過ごせるか”。
だから僕たちは、いいことも悪いことも、正直にお伝えするようにしています。
もし、迷っていることがあれば、いつでも聞いてください。
「自分にとって納得できる家」を、いっしょに探していきましょう。
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