【はじめに】
「木には調湿作用がある」
よく耳にする言葉だけど、それだけで家の空気が整うと思ってしまうのは、少し危うい。
僕は木が好きだ。
でもだからこそ、木に“すべてを任せる”ことはしない。
木を活かすには、木を“支える設計”が必要なんです。
【木は空気を整えてくれる。でも、限界がある】
たしかに、無垢材には湿度を調整してくれる力がある。
雨の日に、床の表面がしっとりしていると感じたことはないだろうか?
あれは、木が空気中の水分をゆっくり吸ってくれている証拠。
でも、たとえば「1枚のタオルでお風呂場の蒸気すべてを吸いきれるか?」と聞かれたら、
それは無理な話だと、すぐにわかるはず。
木も同じだ。
いくら吸湿できるとはいえ、家全体の空気の管理を“木だけ”に任せるのは難しい。
【空気が動かないと、木も呼吸できない】
特に、風通しの悪い場所や気密が取れていない空間では、
木がもっている“調湿の力”もうまく発揮されなくなる。
たとえば、風のない日に干した洗濯物がなかなか乾かないように、
空気が滞れば、木も湿気を吸いきれず、逆に湿気を抱え込んでしまう。
そしてそれが、カビやシミ、木材の劣化につながることもある。
「調湿だけでなく、“空気の質”も家の快適性を大きく左右します。
→ 深呼吸できる家ってなんだ?室内空気と木の関係を本気で考える
【設計と設備が、木の力を支える】
僕は自然素材を信じているけど、それだけに頼らない。
計画換気・断熱・気密といった「空気の設計」があってこそ、
木の力が本当の意味で暮らしを助けてくれる。
断熱が弱い家では、せっかく蓄えた熱が逃げてしまい、
床は夜にはひんやりと冷たくなってしまう。
それを“木のせい”にするのではなく、
どうすれば木が活かせるかを考えることが、本当の設計だと思う。
【カビや結露のリスクもある】
梅雨どきや冬の結露。
窓辺にうっすらと水がついて、放っておくとカビが発生する——
そんな経験は、誰にでもあるはず。
木の家も例外ではない。
空気の流れが悪ければ、木の表面に湿気が滞留し、カビの原因になる。
「自然素材だから安心」という言葉には、設計と使い方が伴って初めて意味がある。
【次回予告】
次回は、「木の家にカビ? 結露?」をテーマに、
その原因と、防ぐためにできることをお伝えします。
【おわりに】
木は優しい素材だ。
でも、だからこそ“守ってあげる設計”が必要だと思う。
無垢材と暮らすということは、
ただ素材を選ぶことではなく、“空気と一緒に設計する”ということ。
僕は、そういう家づくりを、これからもしていきたい。